最新 アメリカ軍野戦食事情!


最近は各国の戦闘糧食も入手出来易くなり、今まで謎だった部分が少しずつ解明されてきてはいる物の、まだまだ分からない部分もあり、興味の尽きない分野である。 人は毎日食事をしないと生きていけず、戦争の始まりも、食糧を奪い合うことから始まったと容易に想像がつくだけに、食に関して興味を持たない人は居ないのではないだろうか? そこで我々は世界の食文化を如実に表わす各国軍隊の、いわゆる「レーション」と言う物に焦点をあて、収集研究をしてきたわけであるが、その興味の中心は「インデビデュアル」と呼ばれる個人用食糧についての研究をもっぱら行ってきた。ご存知の通り、「レーション」という単語には支給品と言う意味があり、昔は酒やタバコ、石鹸などもレーションであったが、兵士に支給される食事をさす言葉として使われることが一般的だ。 インデヴィデュアル、コンバット、レーションはどちらかと言うと非常食と言う位置づけであるため、腐りにくい、調理不要ですぐ食べられる物を中心に構成している事が多く普段の食事に比べて簡単である事は否めないだろう。 軍隊は24時間稼動しているが、彼らが勤務中に軍から提供される食事は、もちろん全てがパックに入ったコンバットレーションではない。むしろコンバットレーションの連食は栄養が極端に偏る為、軍でも避けるように指示されている。 その為、何処の国の軍隊も戦闘中で無ければ極力生鮮食品を調理した温食を戦場の兵士に食べさせるように努力しているし、基地や駐屯地に居る時は、当然のことながら作りたての食事を提供して、兵士の士気を低下させないように気を配っているのだ。 もちろんそれは一律に支給される物なので、兵士に食事内容を選ぶ権利は無い。それだけに誰もが納得する食事を提供する必要があるのだが、内容だけではなく、衛生や調理法にも気を配らなくてはならない。何故なら多くの場合その食事は、兵士自らが調理をしなくてはならないからだ。 つまり食糧を安全に保管、運搬し、不足なく前線に配送するロジスティック能力も、その国の軍事力を示す一端であると言える。 旧日本軍にロジスティック能力がまったく欠けていたとは言わないが、補給路を寸断され、さらには生産、供給能力の差で先の戦争に負けたのはまがりなりにも事実であろう。
(旧日本軍の名誉のために言っておくと、当時の世界レベルで見ても、旧日本軍の兵站、補給能力はかなり高く、軍用の機能性食品の研究においても、最先端を行っていた事を付け加えておく。アメリカ以外の国と戦ったのであれば、これほど苦戦する事は考えられなかった。)

それでは、今なお世界最強を誇るアメリカ軍の食事事情はどんな物か!歴史を追ってじっくり見てみよう。

アメリカ軍は第一次大戦以前(独立戦争〜メキシコ戦争〜南北戦争〜米西戦争)まで、支給された材料、または個人で購入した食材を使い、各自が、または仲間内で調理した食事を摂っていた。食材が支給できない場合は給与に食費を含め、各自食料を個人で調達していたので、今のように軍が纏めて食事を作り、全兵士が同じ物を食べる給食システムは、駐屯地での食事以外一般的では無かった。 
南北戦争の終りには、兵隊1人当たりの基本的な食糧は、1ポンド(454g)の豚肉もしくはベーコン、1.5ポンド(680g)の生もしくは塩漬け牛肉、そして18オンス(510g)の小麦粉で構成されていた。これにメニューによって変わってくるものの、ジャガイモ、エンドウ豆、大豆もしくは米、コーヒーもしくは紅茶、砂糖、食酢、食塩、胡椒、ロウソク、石鹸なども支給されていた。

しかし軍隊と言う大組織が集団で行動する場合、各個人で調理をして食事を摂るスタイルは効率が悪く、場所によっては食料を調達する事自体難しいため、数日分の食糧を携帯しなくてはならない。 さらに調理器具も携帯する必要があったので、個人の負担が大きく、牽いては軍全体の行動自体に支障が出てしまう。 その為、兵士の負担を減らして効率よく、スピーディーに全兵士へ食糧を供給するシステムを取り入れる必要が出てきたのだが、それが具現化したのが「総力戦」で戦った、第一次大戦頃からである。 1901年には陸軍によって、レーションは使用目的によって以下の5種類に分別されることになった。

(1)駐屯地用(ガリソンレーション)
(2)作戦中の戦場用(フィールドレーション)
(3)行軍中など移動中で、調理設備を利用できない場合(トラベルレーション)
(4)陸軍の輸送部隊によって移動中用
(5)作戦中の緊急時用(エマージェンシーレーション)

中でもフィールドレーションは、個人一日分のリザーブレーションや塹壕戦を考慮して作られた1ユニットは25人の1日分トレンチレーションなど、調理済み食品を缶などの密閉容器に詰め、開封して直ぐ食べられる現代的なレーションが登場した。
その後、糧食に関する研究はさらに進められ、第二次大戦頃にはこのような区分に分別されていくようになる。

○=Aレーション(準戦時食)基地やキャンプで食べるギャリソンレーション。
○=Bレーション(温食)・・・戦地のフィールド・キッチンで纏めて調理されたり、後方より運搬された食事。
○=Cレーション(缶詰)・・・戦地で温食の配給が出来ない事を前提として配給される携帯食料。(一般兵士向け)
○=Kレーション(野戦携行食糧)・・・空挺部隊用に開発された、小型、軽量の携帯食料。
○=Dレーション(非常食)高カロリー、携帯性重視の非常食
○=航空非常食
○=病院食
さらにトレンチレーションに似たグループ向けレーションである5in1や10in1と言ったレーションも準備されていた。

5in1

10in1

MOUNTAIN RATION

当然のことながら、戦闘中にご馳走を作っている余裕はない、とは言え非常食である缶詰主体の戦闘食ばかり食べさせられたら栄養的にも偏るし、同じメニューばかりでは飽きて士気も落ちてしまうだろう。 なので食べる場所や状況により支給する糧食を使い分けると言うやり方は現在でも必要だ。兵士と言えど生身の人間で、普段は栄養のバランスを重視した生鮮食品を調理した食事を求めているのは事は言うまでも無い。

ベトナム戦争時代には冷えた缶詰のレーションに飽きた兵士にとって、ヘリコプターで運ばれてくる調理された温かい食事は、何よりのご馳走だった。
また、状況が許す限り、前線に展開している部隊を夕刻には引き上げさせ、夕食は駐屯地で食事を摂らせるように努めていた。 そして翌日、朝食を済ますとまた、作戦行動地域に向かうのだ。

ホットドックにチリビーンズは兵士の大好物。

さてそれでは、現代のアメリカ軍に提供されている糧食はどうなっているのであろうか?

現代のアメリカ軍では、様々な戦闘糧食が使われている。 有名なのがMREやLRP、MCWと言った個人用携帯糧食だろう。さらに各種非常食があり、グループ向けレーションであるUGRと言う物がある。UGRとは、Unitized Group Ratioの略で、直訳すれば集団一体化糧食もしくは集団単位の糧食と言った方がわかりやすいだろう。
団体用UGRにはさらに細かい区分があり、UGR-A、UGR-B、UGR-H&S、UGR-Eと分かれている。 MREやLRPなどの個人向け戦闘糧食に関する認知度は比較的高いので、今回は主にUGRについて紹介しよう。

まずはUGR-Aであるが、これはAレーション、つまり基地やキャンプで食べるギャリソンレーションの事である。(Garrison=恒久的施設という意味で基地を示す、基地ではない駐屯地はCAMPであるが、駐屯地で食べてもギャリソンレーションである) 自衛隊をはじめ多くの国の軍隊では、基地(駐屯地)食のメニューは固定されておらず、決められた予算で手に入る食材で臨機応変にメニューを組んでいく事が多い。特に自衛隊の場合、各駐屯地により名物メニューがあったり、ご当地食材を使ったその地域ならではのメニュー、さらには栄養士考案メニューなどもあり、「何々風」と言った変り種メニュも良く登場する。しかしアメリカ軍の場合、なんと年度によりメニューが統一されて決まっており、朝食ユニットは7種、昼食/夕食兼用メニューは14種類、およそ2週間に一度の割合で繰り返すローテーションメニューになっているのだ。
配食時、食べたい物や量は調節してもらえるのだ。

2007年度メニュー表



メニューは毎年更新されるが、基本的に大きな変化は無く、アメリカ人が大好きなステーキなどは昔からの定番メニューである。
UGR−Aは50人分を1セットとし、3個の箱で1ユニットが構成されている、そのうち1箱は冷凍食品専用で、食材を解凍してから調理をし、保温容器に移して基地食堂で、もしくは運搬してフィールドにてサーブする。現在のアメリカ軍では基地食堂でも全て食器は使い捨てである。これは衛生上の問題と、水資源を無駄にしないための配慮だが、その為どのUGRのユニットにもコップ、トレー、ナプキン、ナイフ、フォーク、スプーンなどの食器セットが必ず含まれている。さらに調味料、粉末ジュースや珈琲類、スプレッド類、その他に調理を必要としない、もしくは常温保存可能な食材が残りの2箱に詰められているのだ。

メニューが固定されていては飽きてしまいそうだが、それぞれの基地によってメニューを考案する必要がなく、味や食事の内容に差が出ない。また調理方法も統一できるので炊事兵の教育も簡単である。 つまり世界中何処でも安定して同じ味を提供できて、さらに同じ物を一括で大量に製造すればコストが下がるし、肉、野菜、魚など各食材別に材料を発注する手間もないなどメリットが大きいのだ。ただし生鮮食品メインである為、冷凍状態でも最長六ヶ月、食材の種類によっては三ヶ月程しかShelfLifeが無い為、必要分は注文によって生産され、工場より世界各地へ直送される。

飽きると言っても元々アメリカ人の食生活は単調であるし、3食全て基地で食べる者も少ないだろう。戦地や演習中に妻の手料理とか外食は無理であるが、出動時は携帯食だし、ッ勤務時間外はPXで食事も出来る。 全く同じ物ばかり繰り返し食べると言うわけでもないのだ。 さらに言えば、実は上記メニューはあくまで基本であり、これ以外にもパンや牛乳、現地で入手できる生鮮野菜や果物、さらにケーキやスナックなど副食がたっぷり用意されるので、各自がその時に食べたい物をその中なら選ぶ事が出来るのだ。

このようにUGR−Aは非常に優れた給食システムだが、一つ大きな欠点がある。それは食品が冷凍で保存される事を前提としている為、保管には必ず冷凍設備が必要であると言う事だ。 アメリカ軍のロジスティックは優れていると言え、巨大な冷凍コンテナを準備できない場合も想定しなくてはならない。また必要に応じて生産するBuild-to-orderであるから有事に備えての備蓄が出来ず、製造が間に合わない場合もあるだろう。そのような、さらに戦場に近い場所で調理される事を前提に、どんな状況でも素早く温食を供給出来る様に用意されているのが、UGR-Bである。
UGR−BもUGR-A同様、3個のユニットボックスで1セットとなり、50人分の食材から食器類まで梱包している。そのうち1箱は乾燥食品や缶詰など常温保存可能な食材で構成されており、フィールドキチンで調理され、兵士に温食をサーブされる。 常温保存可能な食材で構成されているので、摂氏25度の環境で18ヶ月の保存備蓄が可能だ。



メニュー表





さて、UGR−AとBは調理してからサーブする事を前提とした後方レーションであるが、UGR−H&SとUGR−Eは前線での使用を目的としたグループレーションである。
まずはUGR−H&Sであるが、これはHeat&Serve つまり温めるだけで直ぐに配食できるように、薄いトレー型の缶詰に調理済みの食材を収め、簡単な手間で多くの兵士の胃袋を満たす事を目的としたレーションである。 手順としては、一旦段ボール箱から中身を取り出し、専用の加熱器具にトレー缶をセットして暖める。薄いトレー形の缶詰は熱が均等に加わり、比較的短時間で加熱することが可能だ。 その間に粉末のジュースを水に溶いたり、パン類やケーキ類の缶を開封して、食器類などを準備する。 程よく温まったメインミール缶を開封し、それぞれ食器を手に持って腹をすかして並んでいる兵士に、適量を配給していくだけである。 最近のものは上面が金属から厚みのあるポリエチレン系の蓋に替わり、缶切りを必要とせずにナイフで簡単に開けられるようになっている。 登場した当初、トレー缶に入れられ、トレー食器に盛り付けて配給されたことから「T-Ration」と呼ばれていた。
 




近年新しく配給されはじめたUGR-Eはさらに簡単だ。UGR-EのEはエキスプレス、つまり超特急という意味で、加熱する特別な機材をも必要とせず、あっという間にホカホカの食事を提供できるように工夫されている。 その秘密はメインミール間の間に挟んだ化学加熱剤で、MREのレーションヒーター同様、そこに水を加えるだけで瞬時に加熱剤が発熱し、食品を温めることができる。加熱剤には紐のついた水パックがセットされており、箱から中身を取り出さずその紐を引くだけで加熱OKだ。




イラク戦争開戦時、驚異的なスピードで進軍するアメリカ軍を伝える映像を目にした人も多いだろう。その時にMREばかり連食していたと思われがちだったアメリカ軍将兵が、トレーをつついて食事を摂っている映像を目にすることがあった。 むろんフィールドキッチンはそこまで追いつくことはできないし、移動する部隊に温食を届けることは、あれだけの部隊規模ではかなり難しい。 実はその時に食べていたのがUGR-H&Sだったのだ。

しかしなぜ?MREだけではいけないのか? 使用目的が同じであるなら、個人用とグループ用を分ける必要は無いのではないか? という疑問もあるだろう。 事実、自衛隊にはグループ用レーションは存在しないし、他国軍隊を見回してもUGRに似たグループレーションはあまり見ることはできない。 ドイツやイギリスにもグループレーションが無いわけではないが、個人用と同じ内容物を、数人分まとめてパッキングしてあるに過ぎない。 しかしこれは簡単なことで、要はコストとサイズの問題だ。 同じ人数分の食料をメニューごと一人分個別にパックするのと、数人分をまとめてパックしてあるのでは、コストも手間も、はたまた梱包サイズや重量においても、まとめて梱包してあるほうが小スペースで済み合理的であるのはいうまでも無い。 それとアメリカ軍では自衛隊の野外炊具のように、素材から調理する小型の調理器具をフィールドで運用する事を考えていない。 わざわざ危険地域で手間と時間のかかる調理をする必要など無いのだ。  不安定な戦場ではMREなどの個人携帯用戦闘糧食を使い、その中間である自軍支配地域や、砲兵などグループで活動する後方支援部隊でUGR-H&SやUGR-Eを使えばよいと割り切っている。 無論コンテナキッチンやトレーラー式キッチンなどもあるが、これは主としてUGR−AおよびUGR-Bを調理するための機材であり、比較的安定した地域で駐屯地を設営した際に使われる。

世界中の何処でも戦えるアメリカ軍の個人用戦闘糧食には、通常支給されるMRE以外に、MCWなど寒冷地などの特殊環境用のレーションも用意されている。 同じようにUGRにも寒冷地向けArcitce Supplementというものが用意されており、これは通常UGRにプラスして、足りないカロリーを補うための加給食、主にスープや温かい飲み物、カロリーの高い甘味類と、冷めにくい発泡スチロールの食器が付属するように構成されている。



このように合理性を追求しつつ、温かくて美味しい食料を、世界中のどんな地域であっても配給できる糧食システムを、アメリカ軍は持っているのだ。 その際たるものがUGR−Aであろう。地球上のどんな地域であっても、アメリカ本国とまったく変わらない味とボリュームを提供するため、食材を現地調達に頼らず、アメリカ本国より送られた冷凍生鮮食品を専用冷凍コンテナにて世界中に配送し、そのコンテナのまま数週間〜数ヶ月も貯蔵出来る恐るべきシステムである。さらに煮る、焼く、揚げる、蒸すと言った万能調理可能で、数千人の兵士に食べさせる膨大な量の食事を数時間で作り上げることのできるコンテナ式やトレーラー式のフィールドキッチン、調理された料理を、屋外でも温かいまま衛生的に長時間保温できるフードコンテナなど、高い次元で生活に関する一切を自己完結できる準備が整っている。 これこそが世界最強を誇るアメリカ軍を支える屋台骨といえよう。

さて、 長いテキストだけを読んでも、イマイチぴんと来ないと思うが、百聞は一見にしかず!実際に米軍で食べられているUGR-Aを、これから写真でじっくり紹介しよう!

普段スポットを当てられる事の少ないアメリカ軍の食について、そこから見えてくるこの国の本当の強さを、十分ご堪能頂き、そして考えていただきたいと思う。

Combat Kitchen 潜入記!