自衛隊レーションの歴史


 実は我が自衛隊の戦闘糧食って、世界的に見ても非常に優秀、かつ美味であるってこと知ってますか?
カンボジアPKOの際、参加国の中で行われた戦闘糧食コンテストでも見事1位になったほどです。
旧軍では戦線までの補給路が寸断され、新鮮な食料が届かず、それでなくても飯盒による現地調理が基本だったため、食事には相当苦労されたと聞きます。
そのため戦地で安心して食べられる糧食の開発には、なみなみならぬ苦労のをされたとみえ、今から紹介する戦闘糧食は、ほんの10数年の間に開発された、数多くの糧食の一部ですが、それでも相当なバリエーションがありました。

自衛隊糧食記

1950(昭和25)年6月25日に隣国で勃発した朝鮮戦争は、その後悪化の一途を辿り、 その影響で1951年(昭和26年)3月、自衛隊の前身であった警察予備隊が創設されました。 その当時、初めて取得した非常食は「乾パン」です。 この「乾パン」は旧軍から唯一受け継がれた正式食品であり、川島主計少将の考案された非常に優れたこの非常食は、ビタミン等の含有量を僅かに増やした以外、そのままの形で今なお使われ続けました(乾パンについて詳しくはココをご覧ください

昭和29年頃より米軍で使われていたCレーションやKレーションの影響を受け、当初はユニット形式での配給が行われます。 三食各々異なるメニューをパックする詰め合わせ食は、第一食(朝食)第二食(昼食)第三食(夕食)とし、その内容も頻繁に入れ替えられていきました。 しかし予算の制約上、米軍レーションに付き物のタバコ、ガム、日用品といったアクセサリーパケットは付けられず、その代わり煎茶や固形スープなどを付属してありました。
その後、米を主食とする日本民族の嗜好にあわせ、昭和30年には米飯缶が採用されますが、 当初はこれだけで主食と副食をかねるシステムで挑んだ為、例えば肉飯缶やチャーハン缶といったものでした。 ところがこれ等は油と味が濃く、臭いが鼻に付きやすいため直ぐに飽きてしまい、消化も悪いと不評でした。  その後主食は薄味で、別に副食をオプションとして2缶ほど付けるという、今の戦闘糧食I型の形式に変化していきます。
ユニットレーションは米軍のような紙箱ではなく、使いまわしの出来る袋入りでしたが、昭和40年に予算の都合上、止む無く断念せざるをえなくなり、現在のメニューに応じて幾つかの品目を裸渡しする方式に切り替わりました。 詰合食は配分、保管、取り扱い管理上便利である事は言うまでも無いのですが、補給所で作業員を雇い、所定品目を嚢詰めにして部隊に送り出すのは確かに手間と費用が掛かるし、缶飯は配給前に一度湯煎する必要があるため、裸渡しのほうが効率が良かったのでしょう。 それに糧食は空いたポケットに分散して収納するのが一般的であり、嚢を回収する手間も省けるので隊員からの不満も特にはありませんでした。

年代別、ユニットレーションのメニュー表(一例)

第一食 第二食 第三食
○1954年
(昭和29年)
大型乾パン
クッキー
練乳
大型乾パン
クッキー
コーンミート
携帯スープ
ビタミンキャンディー
大型乾パン
クッキー
鯖の缶詰
携帯味噌
携帯煎茶
○1955年
(昭和30年)
小型乾パン
オレンジスプレッド
練乳缶
大型乾パン
携帯カレー
鯖水煮缶
粉末ジュース
肉飯缶
携帯味噌
携帯煎茶
○1956年
(昭和31年)
小型乾パン
オレンジスプレッド
練乳缶
チャーハン缶
粉末ジュース
肉飯缶
固形スープ
○1961年
(昭和36年)
小型乾パン
オレンジスプレッド
練乳缶
チャーハン缶
粉末ジュース
肉飯缶
携帯味噌
○1962年
(昭和37年)
小型乾パン
オレンジスプレッド
練乳缶
豆飯缶
鳥・牛蒡煮缶
ふりかけ
白米缶
鯨野菜煮缶
携帯味噌

ユニットでの配給は1965年(昭和40年)で終了しますが、その後も色々なメニューが追加されたり廃止されたりしていきました。

戦闘糧食 (1980年頃)メニュー表
メニュー1 乾パン オレンジスプレッド ソーセージ缶 メニュー2 白飯 たくあん ハンバーグ 鶏肉野菜煮
メニュー3 赤飯  たくあん漬  鶏肉もつ野菜煮   メニュー4 とり飯 たくあん漬  コンビーフ
メニュー5 しいたけ飯 福神漬  鶏肉もつ野菜煮 メニュー6 赤飯  たくあん漬  ます野菜煮
メニュー7 赤飯  たくあん漬  コンビーフ メニュー8 鳥飯  たくあん漬  ハンバーグ

この頃、沢庵などの漬物缶は2食分入りで、バディーと分けて食べていました。
副食缶も焼肉、鰹照り焼きなどがこの頃追加され、乾パンの塗り物にもレバーペーストがあったと記録されています。

戦闘糧食 (1990年頃)メニュー表
メニュー1 乾パン オレンジスプレッド ソーセージ缶 メニュー2 白飯 たくあん マグロ味付 鶏肉野菜煮
メニュー3 赤飯  たくあん漬  鶏肉もつ野菜煮   メニュー4 赤飯 たくあん漬 マグロ味付 コンビーフベジタブル
メニュー5 赤飯  たくあん漬  牛肉味付 メニュー6 とり飯  たくあん漬  牛肉野菜煮
メニュー7 とり飯  たくあん漬  ます野菜煮 メニュー8 しいたけ飯  福神漬  味付ハンバーグ

この頃になると漬物缶は一人1食1個となり、新メニューの牛肉野菜煮や、まぐろ味付け、コンビーフベジタブル、などが加わりました。
旧軍時代からあった「牛肉味付(大和煮)」は、意外な事に自衛隊では最近登場したメニューのようです。
戦闘糧食I型 (2000年頃)メニュー表
メニュー1 乾パン オレンジスプレッド ソーセージ缶 メニュー2 白飯 たくあん まぐろ味付 鶏肉野菜煮
メニュー3 赤飯  たくあん漬  鶏肉もつ野菜煮   メニュー4 赤飯 たくあん漬 まぐろ味付 コンビーフベジタブル
メニュー5 とり飯 たくあん漬  牛肉野菜煮 メニュー6 とり飯  たくあん漬  ます野菜煮
メニュー7 しいたけ飯 福神漬 味付ハンバーグ メニュー8 五目飯  たくあん漬  牛肉味付け

一時期廃止されていた五目飯が復活します。


また昭和29年以降〜現在まで、缶飯だけで9種類正式に採用されました。
メニュー 調達年度
赤飯 昭32〜36・46〜現在   採
肉飯 昭29〜31・34〜36・40     廃
チャーハン 昭37〜39     廃
豆飯 昭38     廃
白米 昭38〜現在   採
とり飯 昭40〜現在   採
しいたけ飯 昭40〜現在   採
茶飯 昭40〜41     廃
五目飯 昭40〜現在   採
これ以外にも多くの試作品があり、ドライカレーなども評判が良かったのですが、他品目と比べて高価なために制式化出来ませんでした。
(しかし現在の戦闘糧食II型にて、ドライカレーをはじめ、多くの種類の飯パックが採用されるようになります。)
飯缶は旧軍時代からあったのですが、もっぱら海軍、特に潜水艦乗員用に使われ、陸軍ではあまり使用されていません。 その理由は炊いた飯は生米と比べて重く、嵩も増え、さらに缶が重いために他ならず、昔は補給を人馬に頼っていた為に出来る限り荷物を軽くする必要があったのです。 しかし先の大戦では不衛生な水や、炊飯時の煙など、生米調理には問題も多くありました。
現在では車両やヘリなどの輸送手段が大幅に向上し、基本的に国内でのみしか戦闘行為を行わないので、旧軍のように生米状態で遠方に輸送する必要はありません。そのため炊飯不要で腐敗や汚染の心配が少ない缶(パック)入り食料が現在では主流です。 但し自衛隊では現在も飯盒を個人装備から外していませんし、炊き立てのご飯の風味には敵いませんので、いまでも中隊単位で野外炊事車による炊飯調理が行われています。


缶飯の初期のものは金属地丸出しのシンプルなものですが、平成元年よりオリーブグリーンに塗装されるようになりました。 塗装初期の物は缶全体が塗装されていましたが、現在では缶切りの刃が当たる部分のみ、塗料が削れて入らないように、地金を残して塗装無しになっています。(この気配りが日本人のいいところ)

レトルト主流の現在でも、日保ちが良いために備蓄食料(非常食)としてカンメシはかかせません。
(先の阪神大震災のとき、カンメシを自衛隊艦艇の風呂で煮て、被災者に配ったのは有名な話。)
ちなみに演習で配給されるカンメシは、民間用の物を流用することがあります。


制式採用品ではありませんが、戦闘糧食II型が登場するまでの一時期、色々なタイプの糧食が試験的に使われました。
こちらは1980年後半頃、嵩張る缶の替わりに米をレトルトに詰めたものです。 携帯性が向上し、平べったいので均等に熱が加わるため、加熱時間も短くなりました。 さらに開封も道具を必要とせず、手で千切ることが出来て、おまけにゴミの始末楽になったすぐれものです。
内容量は缶飯とほぼ同等の400gほど入っています。


やっぱりマッチョな自衛隊はオリーブグリーンが似合うだろう!と、その後すぐに登場したのがこれ!
(どうもカンメシが銀からO.D色に塗装された時期と同じようです。)
このころ少しずつおかずにも改良が加えられ、各種缶詰やレトルトカレーなどが付いてくるようにもなりました。
ちなみにこのレトルト、何かの拍子に簡単に穴が開きます。そこから痛んでくるので、一度上から半分くらい食べた所、途中で下のほうがカビてるのに気がつき、思いっきりお腹こわしたことあります。
上記レーションについて、当時現職であった「The Ration」管理人様より情報を頂きました。

これは、1989年以後から両方とも同時期に混在で配布されてます。副食は、市販の缶詰(鯖の味噌煮、さんまの蒲焼等)でした。

この頃民間用にもレトルトご飯が普及しだし、多分そういうものを有効活用する事により、コスト削減を図ろうとしたのでしょうか?
アイデアは非常によかったのに、ごく短い期間で消えてしまいました。
しかし現在もこのような形で生き残っています「自衛隊トレーニングレーション


中身はこんな感じです。
A-インスタント味噌汁、漬物パック
B-市販レトルトご飯(五目釜飯)
C-市販レトルトご飯(赤飯)
D-昆布巻き
E-折りたたみコップ(内側はアルミコーティング)
市販品を使っているので、メニューバリエーションも豊かで、おかずがもっと豪華なものもありました。
色々な組み合わせでパックされていたようです。
上記レーションについて、当時現職であった「The Ration」管理人様より情報を頂きました。

これについてですが、私が在籍していた時に、1回だけ(ビーフカレーセット)が演習時に配布されました。(同期も別の演習で配給された物を後で見せてもらった記憶があります。その時、新型と言っていました。 インパクトが強かったので今でも覚えております。)
これは、戦闘糧食M型(一般的な言い方)が配布される以前の物です。  北海道らか群馬までの広範囲で配布されていた事実を見ると全国的に配布されていた物だと思います。  外装のダンボールは、無印でした。この後、戦闘糧食M型が配布されるようになり、ここから憶測ですが‥少なくとも戦闘糧食M型以前に試験的に配布されたものだと思います
 




その後試行錯誤の結果、おかずにも大幅な改良が加えられていきました。
そして登場したのがこの「戦闘糧食*」です。*の部分にアルファベットが色々と入るようですが、メニューの種類を示しているのでしょうか?現在、当時自衛官だった方に事実確認中です。
現在の戦闘糧食II型の原型であり、主おかず、サラダ、お漬物(スープ)の組み合わせが1パックに収められているので、味に変化が出て隊員にも好評でした。
ご飯はカンメシか大型パックメシが一緒に配給されていました。
             上記レーションについて、当時現職であった「The Ration」管理人様より情報を頂きました。

これは、1989年の1年間のごく短期間(5月〜8月ぐらい)配布されてました。
このレーションが演習時に配布された際(この演習時、中隊本部付糧食班に配置されていた)補給隊に聞いてみた所、新型だと、話を聞いています。
  私の記憶として残っている当時実際に食べたメニューは、ビーフシチュー(ポテトサラダ、福神漬)、鮭塩焼(ポテトサラダ、お吸い物)、肉団子(若菜スープ、高菜漬)です。  肉団子ですがこれはレトルトパウチではなくアルミの缶詰(ドイツ軍レーションのメイン缶詰と非常に似た素材)に入って、開封に必要な爪が入っていました。  その他、同僚からは、焼き鳥(やきとりもアルミの缶詰で串で刺した状態でパックされていたそうです)、バンバーグが出たと話は聞いております。副食については、あいまいで‥不明です。  配布された時期は、1989年9月以後から、一回の演習で2食分〜3食分もらってました。
アルファベットの件ですが確かに違います。記憶に残っている物では、ビーフシチュー(ポテトサラダ、福神漬)がDだったと思います。鮭塩焼、肉団子のどちらかがEだったと思います。
 


そして平成2年に現在の自衛隊野戦食の主流である「戦闘糧食II型」が正式採用されました。
ちなみに戦闘糧食U型とは、レトルトパック食を指す名称で、それに対し缶詰食をI型と呼称します。
先の市販品レトルトご飯が隊員に好評であったのか、市販品と同じ物?でパッケージを自衛隊仕様にオリーブグリーンとし、1食2パック配給されるようになりました。
これにより、必要ならば2回に分けて食べられるようになり、未開封で保存できるので衛生的です。
米パックは中身が見えるように一部透明になっていますが、ドライカレーやピラフなどの油を使う加工ご飯には、アルミパック包装がされています。


現用戦闘糧食II型



初期型戦闘糧食II型




このように旧型飯盒(I型)に主食と副食がすっぽり収まり、湯煎に掛けることが出来るのですが、
通常配給前に一度湯煎に掛けられているのでそのまま食べる事が出来ます。
ただし数日経つとだんだん米がβ化して硬くなるので、最近では簡易加熱剤というヒーターも用意されています。

おかずにも次々と改良が加えられ、量も種類も豊富になり、現在に至っています。
戦闘糧食メニュー表
おかずの種類も、常に時代によっても変化するものでしょうから、これからどんなものが出てくるのか楽しみですね。
ココに他国軍隊のようにデザートやオヤツ(ようかん等)、調味料や飲み物、出来ればマッチやティッシュが付くと良いのですが。それは今後に期待しましょう。
(演習中に増加食としてオヤツが配られることもあるそうです。)


他国軍隊の多くが糧食に取り入れているのがクラッカーですが、最近になって自衛隊にもクラッカー食が用意されました。
しかし何といっても旧軍から伝わる伝統的戦闘糧食といえば「乾パン」ですね。
自衛隊では旧軍に習い、暫くの間大型と小型の二種類を併用しましたが、最近では食べやすくて取り扱いの楽な小型のみ残されています。(海上自衛隊は大型乾パン)
乾パンはビスケットやクッキーのような甘さも、クラッカーやせんべいの様に強い塩辛さも無い、極めて薄い味にとどめられているので、一見無味乾燥でのどの渇き易い印象を受けます。ところが干菓子系で一番乾きに強いのが乾パンであり、もちろん水気を帯びて淡白な米飯には劣る物の、甘み、塩みに偏らないところに乾パンの乾きに強い秘密が隠されているのです。

乾パン特集

写真左側がI型で、この乾パン1袋にこんぺいとうとオレンジスプレッドチューブ、ソーセージ缶1缶がセットで支給されています。


番外編ですが、これは航空自衛隊救難非常食、通称「ガンバレ食」です。
なぜ?ガンバレ食と言われるのかというと、写真左側の白い紙に「がんばれ!元気を出せ!救助は必ずやってくる!」と書かれていて、精神的にも、肉体的にも遭難者を支えるための食料だからです。
大きな四角いパックは、穀類を主体としたクッキーのようなもので、小さいパックはゼリーです。
この二つで1食分とし(64g)総カロリーはなんと270カロリーあります。
(これは高校時代、文化祭に自衛隊の広報の方が来ていて、試食用に持ってきていたのを頂きました。)

こちらは海上自衛隊の非常食で、中身は航空自衛隊のものと同じ物が使われています。